1 再会

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 あの事件から五年が過ぎた。あの日のことが幻であったかのように、何事もなく平和な日常が過ぎていった。  その間に誠吾は警察を辞め、元々得意分野としていたネットのセキュリティ会社を設立した。今は会社の社長として日々忙しく過ごしているらしい。  芹香の両親が度々ホームパーティーを開くのだが、そこへ誠吾を必ずと言っていいほど呼ぶため二人は何度も顔を合わせたが、芹香の中の消えない傷が壁を作り、他愛もない会話を交わすくらいに留まった。  彼を忘れようと決めたのに、どうしたって彼への気持ちは消えることなく芹香の胸の中に存在する。  誠吾の態度が何も変わらないからこそ、彼にどう思われているかわからなくて怖い……。十歳も下の子にいきなりキスされて、不快な気持ちになったかもしれない。むしろ大人だから何も感じなかったかもしれない。子供が何をやってるんだって鼻で笑っていたりしたかもしれない……。考えれば考えるほどドツボにはまっていた。  そして大学を卒業した芹香は父親が経営するIT関連の会社に就職をした。それも父や兄が必ず近くにいる秘書課へ配属をされた。五年前のことがあってから、父親は芹香に対して極度の心配性になってしまった。手元に置いておかないと不安になるのだと母親が漏らしていた。  本音を言えば他にやってみたいこともあったが、両親を心配させてまで自分を押し通すこともないと諦めたのだ。  あの事件の前まではもっと伸び伸びしていたはずなのに、今は何かに怯えながら、なるべく静かにひっそりと生きていたいと願ってしまう。  そして誠吾を忘れたくて友人の誘う合コンに参加したりもしたが、つい彼と比べてしまい誰にもときめかずに終わってしまうことばかりだった。  私、全然前に進めていない……そんなふうに感じては胸が苦しくなった。  実らなかった恋だから引きずる。拒絶されたから傷が残った。いつになったら変われるんだろう……。
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