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──プスリ。
矢は、見事女の子の胸……胸の辺り許容範囲内に吸い込まれる。
「YES!!」
世界で一番弱々しいガッツポーズをキメたお天さん、後は二人を見守るだけだ。
「私……。好きです……。ずっと前から好きなんです!」
告白が実り、優しく重なった二つの影を背に、お天さんは去ってゆく。
ハードボイルドチックに、ニヒルな笑みを浮かべたいのだが、皺が増えて面妖な笑みになっている。
「恋って素敵だねぇ」
お天さんのキメ台詞は、恋人同士になった二人への餞の言葉。
明日から3日間は、素敵ハプニングの連続になる。
それを生かすも殺すも、二人次第なのだ。
縁側に帰ってきたお天さん、お茶でも啜ろうと座布団を引き寄せた時、ビキンと膝が痛んだ。
「今日も忙しいねぇ。それっ、出動じゃ!」
見習いキューピッド達が、キラキラの美しい瞳を向けて見送ってくれる。
レジェンドお天さん。
彼らにとってお天さんは、偉大なるキューピッドだから。
お天さんの放つ金の矢は恋に狂い、鉛の矢は恋を失う。
掲げる松明は、燃える恋の象徴だ。
矢を放つ強弱や刺さる深さで、いくつもの恋心を表現する。
若い頃から凄腕スナイパーとして、ブイブイ言わせていた。
「お天さーん、いってらっしゃい、お気を付けて〜」
可愛い声に見送られ、痛む膝など何のその。
お天さんは、張り切ってしまうタイプだった。
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