9人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
お天さんは何度も矢筒を覗いていた。
今までは、朝になればミッチリと恋の矢が詰まっていたのに、ここ最近は増えていない。
眼鏡をかけてよく見ても、あと数本ばかりだ。
「これはもしや、転生チャーンス!?」
逸る心を抑え込む、今ある本数に騙されるほど無垢なキューピッドではない。
人生、酸いも甘いも噛み分けた、年の功キューピッドお天さん。
一週間様子を見た。
矢筒の矢は増えなかった。
その代わりに、見慣れない色の矢が混ざっている。
手に取ると、懐かしい香りがした。
大好きなロンドの香り。
一緒に遊び、学んで、キューピッドとして駆け回ったあの頃。
「嫌だね……歳をとると涙もろくなる……」
甘酸っぱい記憶を断ち切って縁側から下りると、膝がビキビキと痛んだ。
「来たね、来たね!出動じゃー」
この日も忙しかった。
どうしても、週末や大型連休に恋心を爆発させる人間が多い。
「恋する者達よ、もう少し平日を利用しようか……」
ボヤいてみても状況は変わらない。
「平日ならば、素敵ハプニング三割増しじゃ!」
プスリ、プスリと恋の矢が刺さる。
悪戯キューピッドやら、気まぐれキューピッドなどと揶揄されるが、律儀で真面目に恋心と向き合うキューピッド。
残業なんて当たり前。
腱鞘炎になって一人前。
ほぼ裸というファッションだから、風邪やらインフルエンザとお友だちだ。
最初のコメントを投稿しよう!