縁側のキューピッド

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お天さんは何度も矢筒を覗いていた。 今までは、朝になればミッチリと恋の矢が詰まっていたのに、ここ最近は増えていない。 眼鏡をかけてよく見ても、あと数本ばかりだ。 「これはもしや、転生チャーンス!?」 逸る心を抑え込む、今ある本数に騙されるほど無垢なキューピッドではない。 人生、酸いも甘いも噛み分けた、年の功キューピッドお天さん。 一週間様子を見た。 矢筒の矢は増えなかった。 その代わりに、見慣れない色の矢が混ざっている。 手に取ると、懐かしい香りがした。 大好きなロンドの香り。 一緒に遊び、学んで、キューピッドとして駆け回ったあの頃。 「嫌だね……歳をとると涙もろくなる……」 甘酸っぱい記憶を断ち切って縁側から下りると、膝がビキビキと痛んだ。 「来たね、来たね!出動じゃー」 この日も忙しかった。 どうしても、週末や大型連休に恋心を爆発させる人間が多い。 「恋する者達よ、もう少し平日を利用しようか……」 ボヤいてみても状況は変わらない。 「平日ならば、素敵ハプニング三割増しじゃ!」 プスリ、プスリと恋の矢が刺さる。 悪戯キューピッドやら、気まぐれキューピッドなどと揶揄されるが、律儀で真面目に恋心と向き合うキューピッド。 残業なんて当たり前。 腱鞘炎(けんしょうえん)になって一人前。 ほぼ裸というファッションだから、風邪やらインフルエンザとお友だちだ。
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