縁側のキューピッド

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「いざ参る!任せなしゃい〜!」 意気込んで噛んでしまったお天さんだが、矢筒を掴むと花畑へと走り出した。 「違う!お天、下、下に行ってーーー!」 お天さんは、ロンドのシニア用ナビゲートを受け、下界へと降り立った。 ここからはもう、自分の力だけだ。 微かに、愛しいロンドの香りを感じる。 長い年月考えた。 恋をつかさどるキューピッドが、恋を知らずに矢を放つこと。 禁忌とされてきたキューピッド自身の恋は、本当に罪なのかと。 「誰かの恋を成就させるには、キューピッドの恋愛経験値は高いにこした事はないじゃろ?」 お天さんは目を閉じた。 ──自分にはわかる。恋の喜びも悲しみも。 あのドキドキする高揚感。 怖さと恥ずかしさが入り交じる感情。 会いたい、喋りたい、見つめ合いたい、触れたい。 私だけを見てほしい、私だけに言葉をちょうだい。 そう、一言。 ──ずっと好きだよ。 「恋を知った私だけが、あなたを見つける事が出来るなら……」 お天さんは最後の矢を引き絞ると、迷うことなく放った。 透明の矢は、人波を裂くように一人の青年の胸に深く突き刺さる。 「ロンド、愛してる」 祝福の光のシャワーが二人を運ぶ。 上へ、さらに上へ、キューピッド界まで。 見習いキューピッド達の歓声が聞こえる。 恋を知ったロンドの罰は、人間として生きることだった。 お天の『ロンドに恋する矢』と、『ひたむきに愛し続ける心』が、ようやく二人を転生に導いた。
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