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レンタル守護霊
「おねぇさん。ちょいと来なさいな」
いつも通りすがるだけの通学路。その日は見知らぬお婆さんに声をかけられた。
商店街の路上に長机を広げて商いをしていた。折り畳み式の椅子が対面に二つ置かれただけの設営。申し訳程度に『占』と書かれた墨字がクタりと張ってある。
普段なら通り過ぎるけど……。
「……有料ですか ? 持ち合わせがないので」
見てもらいたい気持ちと、何か売り付けられたらどうしようという不安はあったけど、私の中で好奇心が勝った。好奇心というより、とにかく今の私には助けが欲しい !
「若いねぇ。いいねぇ〜。男の子に告白かい ? 」
「待って待って待って !! 早いっ !! 話が !! 」
いきなりバレてる !
会話の段階ってもんがあるでしょーよっ !!
「だってそうだろ〜 ? だから来たんだろう〜 ? 」
「こっちは恥ずかしさを忍んで助け求めてんの !!
え ? ってか、お婆さん凄くないですか ? 」
「そうよぉ ? プロだもん。丸わかりさぁ〜」
「うぅ。座っといて何だけど、急に恥ずかしい帰りたい」
「何が恥ずかしいのさ、自信を持ちな」
「……あの、告白……は、明日するんですけど。上手くいきますか ? 」
「知らんわ」
そこは視えねぇのかい !!
「あたしゃね。先のことは教えないようにしてるんだよ。だって人生が決まってるなんて言われたくないだろぉ ? 」
「占い師の言葉じゃない……。仮に決まってても占ってはくれないんですね」
「そうさね。でも助言は出来るよ ? してやろうか ? 」
「いいんですか !? お願いします」
「じゃあ、一旦寝るからね。話かけないでおいてくれよ」
寝る ? 寝るってなんで ?
「あ、あの ? 」
「うっさい」
「すみません……」
お婆さん、もうこっくりこっくりしてるけど。
あれかな ? 夢で声を聴いたり、そういうオカルト的なことするのかな ?
『フゥ〜 。上手くいったね』
「お婆さんが二人ーーー !!? 」
『幽体離脱ってやつよ。アンタ視えるんだね ! 』
いやいやいや。早く戻んないと死んじゃうとか無いよね !?
「幽体離脱で何をするんですか ? 」
『これはレンタル守護霊ってんだ』
「レンタル守護霊 !?
えっ !? お婆さん私の守護霊になるの !? 」
『もちろんレンタル期間だけだよ』
「家に憑いて来るんですか !? 」
『レンタル期間中はそうなるねぇ』
「怖いよっ ! 戻って !! 」
『もう無理だよ。一度出たら告白が終わるまで戻れないんだもんさぁ〜』
聞いてないし、単純に気味悪い。
あれ ?
それってもしかして…… ?
「え……お婆さん……私が告白する時、同席するって事ですか ? 」
『そうだよ ? 』
「いやぁっぁぁあぁっっっ !! 」
悪夢 !! 恥ずか死ぬ !!
『いいじゃん。アドバイスしてやるって言ってんだろぉ ? 』
「うぐ……。本当にアドバイスなんですよね ? 」
『任せなさいってぇ』
「じゃあ……。いいですけど……。
あ。 お婆さん、このまま身体置いていったら大変なことになりませんか ? 」
『あぁ、んじゃおぶってくれるかい ? 』
めんどくせぇシステム !!
『すぐソコ。自宅だから』
「んもーーーっ !! 御自宅でお客さんとってくださいよ ! 」
『イヒイヒ』
取り敢えず小さなお婆さんの身体を背負う。テーブルは知らんよ、もぉ〜。
「お婆さん、貴重品は ? 」
『身体に身につけてるよぉ』
「じゃあいいけど……」
商店街を突き抜け、川沿いの道へ出る。
堤防の側の道をゆっくり歩く。
『カレーが食べたいねぇ』
「黙ってて ! 軽いけど、なんか頭も、メンタルも、私今凄い混乱してるから ! 」
『カレーはタイとインドどっちが好きだい ? 』
「インドカレーです !! インドカレーが好き !! ほんと、もう ! 」
一旦 ! 一旦家に着くまで黙ってて ! 私独り言じゃん !
「あれ ? 恵美ちゃん ? 」
えっ !?
声のした方を振り返ると、明日告白する予定だった中野先輩が野球道具片手に立ってた。
「あ、あわわっ !! 」
「おつかれ。俺、すぐそこの河川敷のグランドで野球してたんだ」
「そうなんだ ! 中野先輩、野球もやるんですね ! 」
『カレーが食いたいわぁ〜』
お婆さん黙っててっ !!
「まぁね。
そう言えば、明日の放課後……何か俺に話があるって言ってなかった ? 」
「ぎゃふん !! がっ ! はっ……はは ! あははは !!
あ〜そ、そうなんです。まぁ急ぎでは無いんですけど ……」
もうダメ !! 想定外の展開に泣きそう !!
『インドカレーの何がいいのか分からん ? 』
「いいの !! 私はインドカレーが好きなのっ !! 」
お婆さん、マジで !! 黙ってっ !!
「あはは。何 ? カレーの話 ? 俺もインドカレー好き ! カレーなら何でも好きだけどね !
ねぇ、今から時間ある ? 駅前に美味いカレー屋があるんだけどさ、これから一緒に行かない ? 」
「私とっ !? い、行きます !! 」
あ、でもお婆さんの身体、届けないといけないんだ !
『役目は終えたよォ〜』
ふと、背中が軽くなる。
後ろに回した手に、何も感触が無い。
嘘っ !?
今まで私が背負ってたのはなんだったの !?
「どうした ? 顔色悪いけど ? 」
「う、ううん。なんでもない !! 」
お婆さん……。幽霊だったのかな ?
でも、助言ってこういう事だったんだ。まさか今日のうちに、先輩とカレー屋さんに行くことになるなんて……。
もうちょっと感謝して接するんだったな……。
「じゃあ行こう。商店街から近いから」
「は、はい ! 」
もう、これは今日、告白しちゃっていいってことだよね !?
緊張してきた !
中野先輩と並んで歩く。
何だか夢みたい。
会話も順調 !
それにしてもレンタル守護霊かぁ。
悪くないかも。
でも、ちゃんと成仏出来るのかな ?
曲がり角に差し掛かった時、長机にペロンと張られた『占』の文字が目に飛び込んできた。
片側の椅子には紛れもなく、あのお婆さんが座っていた。
「生きとったんかいっ !!!! 」
「ああ、インドカレーのクソ娘」
「カレー食う前にクソとか言わないで !! 」
やばっ !!
先輩の前で私ったら。このババアツッコミどころしかないんだもん…… !!
「あ、婆ちゃん」
「婆ちゃん !? 」
「俺の祖母なんだ」
オレノ ソボ ナンダ ???
「先輩っ !? 先輩もレンタルしたんですか !? 」
「いやいや、何 ? なんで婆ちゃんを俺がレンタルするの ? 意味分かんないから。レンタルって何 !? 」
先輩はレンタル守護霊を知らないんだ……。
「中野先輩のお婆さん……う、占い師なの ? 」
「いひひ。あたしゃコスプレイヤーだよ」
「レイヤーっ !? 占い師のコスプレイヤーって事 !? じゃあさっきのなんだったの !? 」
「いひひ、知らないねぇ ? 何かあったのかい ? 」
しらばっくれとる !!
「恵美ちゃん、うちの婆ちゃんと知り合いだったの ? 」
さっきレンタルしたんですよ。お婆さんの幽体を。って、言えるかっ !!
一応これ初デートだからねっ!!
「えと……。はい。世間話程度ですけど……」
でも、まぁいっか。おかげでデートになったし。
「い、行きましょうか中野先輩 ! 」
「うん。そうだね」
『あたしも行くわ』
二度目の離脱 !!
「なんで来たっ !? なんで来たっ !?
そんなツルツルすぐ出て大丈夫っ !? 副作用とかないのっ !? 」
『寧ろ動きやすい』
「まじかっ !! 」
「恵美ちゃん、急にどうしたの ? 」
はうっ !!!?
「い、いえ……なんでもないでーす」
『まさかうちの孫だったとはね !! 』
そこは視えなかったんかいっ !!
『ふんっ ! 咀嚼中に何か言って吹き出させてやる』
下品なイビリ !!
『アンタ、カレーうどん頼みな。その白い制服にはね飛ばしてやる』
地味だけど、デート中凄い嫌な状況 !!
「同じカレー好きなんて嬉しいな。エスニック料理も好き ? 」
「はい ! どこかおすすめありますか ? 」
「あるある今度行こうよ ! 」
『きぃ〜っ !! 香辛料サービスしてやる !! 』
「……い、行きましょう ! 嬉しいです ! 」
レンタル守護霊。
ご利用は身元を確認した後、計画的に……。
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