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移動教室の帰り、友達の香織と面白い動画の話に盛り上がっていると、どこからか風が吹き、髪が揺れた。私は立ち止まって周りを見回す。
「どうしたー?忘れ物?」
香織も数歩先で立ち止まって、私を見ている。
「ごめん、先行ってて」
私は廊下を戻り、風が吹いてくる場所を探した。それは廊下の端にある屋上へと続く暗い階段から吹いているようだった。
屋上には鍵が掛かっているはず。都合よく鍵が壊れていることはない。そういった備品の管理や規則には、他よりも厳しく管理されていた。
しかし今、屋上の扉は少しだけ開き、外の光が筋となって漏れていた。私は扉を開き、外を覗いた。
そこには、茶色の長い髪に白い片翼をもった少女がいた。
しかし、その翼はすぐに散ってしまった。
そっと扉を開けたつもりが、蝶番が錆びていたのか耳障りな音をたててしまった。
物音に少女が振り返った。口にタバコを咥えている。
「閉めといたと思ったのにな」
少女はそう言って、白い煙を吐いた。私は恐る恐るといった感じで少女の傍まで行った。
「あの、体に悪いよ。タバコ」
私がそう言うと、少女はまじまじと私を見つめ、優しく笑った。瞳も綺麗な薄い茶色だった。
「ああ、知ってる。だから、吸ってるんだ」
少女は私から少し離れた。煙が遠くなる。
私は少女のスリッパを見た。ワインレッド色のスリッパで私と同じ3年生だと分かった。
「ここでなにしてるの?」
「タバコ吸ってる」
彼女はまたタバコを咥え、青空の向こうを静かに見つめた。私も彼女と同じ方を見る。彼女は何を見ているのだろう?
カチッという音がした。少女の方を向くと、使い捨てカメラで正面に見える青空を撮っていた。そして、ジージーと巻き上げダイヤルを回している。
「何撮ってるの?」
「青空」
私は空を見上げた。
屋上から見えるのは青空だけだった。押しつぶされそうな青空だ。
予鈴が鳴った。
私は教室に向かおうとしたが、少女はそのまま青空を見ていた。
「いかないの?」
「タバコのにおいが消えるまで、ここにいる」
「そう」
私は一人で屋上から降りて行った。
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