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『間もなく、電車が止まります。白線の内側までお下がり下さい。』
金曜日の夜二十三時三十分。私達は駅のホームで待ち合わせた。時間迄あと数分しか残さなかったのは迷う時間を出来る限り無くしたかったのと、この時間に歩き回り警察に歩道される可能性を危惧したから。学校が終わってから二十時までは公園で共に過ごして、一度家へ帰りそれぞれ夕飯を食べた。
「お待たせ。」
同じ制服を着た彼女もまた手ぶらだった。これも話し合って決めた事。跳ねられた時に物が飛んで他の人に当たるのは良くないよね、と。自分達の身体が当たってしまう事も想像したが、それはもうどうしようもない。
私達は今から死ぬ。言い出したのは彼女の方だった。初めは私は死ぬつもりなど到底無かった。だが彼女が死ぬ理由や方法を語る程に、その覚悟が確固たる物だと伝わり、私の生きる理由がどんどんと薄れていった。私の生きている理由、それは彼女だった。家族という身近な存在よりも、恋人という愛おしい存在よりも、ただの友達である彼女が私にとって何よりも大切で、たった一つの生きる希望だった。その彼女が死ぬと言うのだ。彼女の話の中にいる私はあくまで脇役だった。私は彼女の希望にはなれなかった。だから最後くらいは。
「次の通過の電車だね。」
「そうだね。」
電車を待つ数分の間、私達は手を繋ぎベンチに腰掛けていた。周りの大人達からの視線は気にならなかった。もう誰も止められないのだから。
『電車が通過します。白線の内側までお下がり下さい。』
ホームの奥に光が見え電車が近づくのを確認すると、私達は一気に光の中へと飛び込んだ。
走り出した瞬間からはスローモーションのようにゆっくりで、電車のライトの暖かさまで感じられた気がした。
その一瞬に聞こえた。
「巻き込んでごめんね。」
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