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乱視とメガネと風景画
中学のとき、私の描く風景画は明るいと言われたことがある。なんのこと? と思ったが、文化祭で学年全員分の風景画が展示してあるのを見ると、なるほどたしかに私の絵は明るい。
木々の葉も、幹も、地面の色も、使っている色が他の同級生たちの絵と違って、異様に明るかった。
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先日、運転用のメガネを新調した。それまで使っていたものは、私の不注意で愛犬(ゴールデンレトリバー )に噛み砕かれてしまった。部品は全部そろっていたから飲み込まずにただ遊んだだけのようで、悪気のない、やり尽くして満足した顔に崩れ落ちた。
日常用のメガネがあるから、しばらくはそれで運転もしていた。――が、「運転用のメガネ、やっぱ必要」と思い至り、行きつけのメガネ屋さんへと駆け込む。
私が運転用のメガネに求める条件は、「夜、雨が降っているとき、路面の照り返しや対向車のライトがまぶしくないこと」。私の目にとって一番つらい状況がこれ。
特に対向車が来たとき、右側のレンズが乱反射し、強烈なまぶしさに襲われる。あたりは真っ暗なので、一旦視界を失うとかなりの恐怖である。なんとしてもここのリスクだけは回避したい。
日中のまぶしさは度入りのサングラスで対応できるが、夜間のサングラス着用はよろしくない。だから夜間のための、運転用メガネが必要なのである。
このメガネ屋さんは長年通っているところなので、私の視力の推移から細かい要望まで、データが全部残っている。夜の雨天時の乱反射についてももちろん心得ている上に、今回の店員さんはかなり研究熱心な方。どの環境にどのレンズが効果的かを実際に調べてみたらしい。
その結果、夜間のヘッドライトのまぶしさを一番緩和してくれたのはブルーライトをカットするタイプだったとのこと。言われて気づいたが、ヘッドライトもブルーライトである。
ということで今回のレンズは、店員さんに全幅の信頼を寄せて、ブルーライトカットに特化したものをお願いした。
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店員さんと話していて気づいたが、私はどうやら、人一倍、世界がまぶしく見えているようだ。その原因の多くは、乱視がひどい、これに尽きる。そういえば前に眼科の先生から「天文学的な乱視」だと揶揄されたこともあった。
思えば中学生の頃も、手元の絵の具は多分そんなに差異なく色を認識していたと思うが、遠くの景色は結構ぼやけていた。
ぼやけていたという自覚も長い間なかったが、バレーボールやお月様の輪郭が何個も見えたことで自覚した。夜景なんて3倍増しで輝いて見えるから、メガネをかけたら「あれ?」となる。昼間の木漏れ日や、山の木々の葉が光を反射する様も、キラキラ3倍増しなわけだ。
新調したメガネを受け取った日。メガネをかけたり外したりして、周りの風景を見比べる。
ブルーライトがカットされている分があるとはいえ、やっぱり私は、世界が輝いて見えていた。そりゃ風景画も明るくなるわけだと、30年越しで納得した。
これからはきっと、「この人には世界がこういうふうに見えているんだなぁ」と思いながら絵画を見るに違いない。
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