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バス通りに出るともうバスが見えている。雨で重くなったスカートが纏わりつくのも構わず必死に走った。どうにかバスが着く前にバス停に辿り着いた。
こんなにビショ濡れじゃ嫌がられるし、哀れみの目で見られてしまう。でも摩耶が言った通り、施設の中でいちばん上の私はお手伝いをしなければならない。乗らなきゃ……。
扉が開いた。運転手さんに申し訳ない気持ちで頭を下げて乗り込んだ。中は空いていたけれど座るわけにはいかず、手すりに捕まり立っていた。
「これ……」
少し年上に思える男性が青いタオルを差し出してくれた。
「えっ?」
「使って、髪の毛だけでも拭かないと風邪ひいちゃうよ?俺、次で降りるから」
私は慌てて髪の毛を拭き、そのタオルをどうしようと見つめていると扉が開いた。
その人は「じゃっ!」と、そのタオルを取りバスを降りて行ってしまった。
どうしよう……お礼も言えなかった。いつもこのバスに乗ってる人なのか?又会えるのか?
私はあの日言えなかったありがとうがつかえたままの日々を送って行く事になった。
進路を決めなければならない時が来た。進路指導室で資料を見ていた。進学なんて無理なのはわかっていたけど、一冊のリーフレットに目が行ってしまった。
ーあなたしか言えないありがとうをー
ある大学のホスピタリティーツーリズム学科のキャッチコピーだった。
あの日言えなかったありがとうを思い出した。これしかないと思った。
そして奨学金制度に申し込み進学をした。
そして卒業後にホテルに就職が出来た。自分なりに頑張って来た自負はあった、でも不思議な位の高級ホテルの就職。同級生達からも祝福された。
やっと自分の居場所が見つかった。やりたかった仕事に就けた。毎日が充実していた。
なのに……。
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