雨あがる

4/15
17人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ
その日、出勤をすると事務所に呼ばれた。 中に入ると本部の人事の方々が重たい顔で座っていた。 「水木綾さん、いつもご苦労様です。あなたの仕事ぶりは会社でも評価してます。しかし、御存知の通り今この国は新型のウィルスに犯されています。ここは国策で一時、療養型ホテルになる事が決まりました。なので今のスタッフをもて余す事になってしまいます。ですので水木さんにはこのホテルが解放されるまで、系列のカフェ部門に出向していただきたいのですが、宜しいですね?」 私は承諾するしかなかった。「私にしか言えないありがとう」を言える場所が変わるだけだ。そう思うしかない。 それから間もなく、東京の郊外にある高級住宅地の中のカフェに異動した。 「水木綾です。宜しくお願いします」 従業員に挨拶を済ませ、教育のペアとしてひとつ年上の崎山百合さんがついてくれた。 「ホテルとは勝手が違うから戸惑いもあるだろうけど何でも聞いて」 とアッシュブラウンの髪を纏め、ハーフかと思わせる顔立ちの品の良さそうな百合さんに見とれながら挨拶をした。 それから百合さんは優しく何でも教えてくれ、私はすっかり心を許し、百合さんに誘われ他の仲間とも食事に行ったりして聞かれた事は何でも答えていた。 生い立ちまでも……。 「ねぇ、今日からバイトが入るの聞いた?面接に来た時にリオが見たんだけどスッゴいイケメンだって」 「そうなんですかぁ、百合さん綺麗だから頑張っちゃえば上手くいくかもですね?」 「ん~、見た目もだけど…私の条件にあうかなぁ」 「百合さんの条件?」 「あれ?言わなかったっけ?私が何故ここで働いているか、それはお金持ちのお客が多いから!私、貧乏きらいなの。まぁそのイケメンが学生ならまだしも、社会人の年でバイトでしょ?ナイナイ!」 百合さんは手をバタバタ振って苦笑いをしていた。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!