妄仙胞子

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妄仙胞子

――(うつつ)の世を跋扈(ばっこ)するは人や獣のみならず。(かそ)けき彼らもその一つ。  彼らは怪異。人の身近に紛れ潜み、その姿は獣や果実、雫などに至るまで。しかし見えぬ者には、ただの(とぎ)。  彼らに目的など無い。ひと同様、その理の中で揺蕩うものに他ならぬ――  とある山麓の集落。近くには水脈があり、水は潤沢で田畑は多い。山では四季折々の野草をはじめ山菜も多く採れるという。  街道沿いから外れはするが、このこともあって商人は度々訪れるのだと、道すがら耳にした。  しかし、人々が訪れる理由はもう一つ。不治の病に冒された人々を救った『(おぼ)えの巫女』を拝むためだ。  嘘か誠か分からない。だが一度、行ってみるべきと決した俺は、済度(さいど)し難い思いを片隅に据え、村の前まで来た。  目をやれば、豊かな風土に似つかわしい溌剌とした面持ちで小袖を着る者達。  外れでは先ほどから、膝丈の着物や股引(ももひき)の軽装で農作業をする者が多く見えた。背に赤子を入れている者も多そうだ。  子が多くいることや、ここに来るまでの動物たちを見れば知る。土地の豊かさを。  茅葺き屋根が並ぶ光景はよくあるが、とりわけここまで溌剌な様子は、稀有(けう)なものだろう。 「へぇ。思ってたより賑やかだな」
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