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「……流行病が出る前、私は山に籠っていた。足を怪我した父に代わり、数回目となる雨乞いの儀のために。
そして儀を終え帰る道中、夕陽を背に不思議な光を放つ果実を見つけて声を聞いた。頭の中で響くような声で、救いたいならそれを口になさい、と。
意味もわからぬまま、私は空いた腹に急かされるように果実を口にした。ところが腹は満たされることなく、妙なひりひりとしたものが骨の中を巡るように流れていったわ。
気づけば空腹など忘れていて、戻ったその日は何ともない一夜を過ごした。妙な夢を見たことを除いて。
でも翌る日、夢は真となった。次々と村人達が奇妙に病んでしまった。
もしやあの言葉はこれを悟って力を授けてくれたのかと、その時は思ったわ。治す方法が分かっていたの。夢で同じものを見ていたから。
やっと私にしか出来ないことが生まれたと……不謹慎ながら心中歓喜したのを今でも覚えてるわ。
でも治せぬ者がある程度いた。ミスズもそうだった……やはり雨乞いもできぬ未熟者だからだと思い、自分を責めた。
でも、数年後また同じ流行病が起こって新たに気付いたことがあったの。
これはもしや私が招いたものでは……と。でなければ、なぜ救えない。そして何故、死にゆく人の記憶が流れ込んでくる。それにまるで人を食べているかのようだったわ。
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