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そしてある日、何を信じれば良いのか分からずにいたところ、ある薬師さんが私の大祓えの話を聞きに来たことで、薬に対する興味が起こった。
それからは償いのためにも、薬の知識をつけていった。それからも人がよく訪れるようになったから、いろいろ教わることができたの。この身分のこともあってね――」
伝説が生まれたからこそ人が居付き田畑は実り、イヅナは薬の知識を培った。
しかしその大元や、怪異が招いた自作自演たる疫病あり……こりゃ何とも皮肉な業だ。
「それは妄仙胞子と言う。人を食う怪異だ」
イヅナの手は一度強く力んだ。
「やはり……奇怪なものだったのね。
私は本当のことが知りたい。キクリ、あなたなら知り得ているのね。その怪異が、私に何をしたのか。流行病の正体は何か。この先に、どんなことが待っているのか……お願い、教えて」
その澄んだ目が芯に訴えてきた。
「妄仙胞子ってのは、宿主を見つけると自らを食わせる。そして周りの同族を病に冒す。
その中で捕食するものと残すものを分けるんだ。多く食ってしまっては、また新たな土地へいかねばならず負担がかかるからな。
少しずつ食うことで。さらには治す者をわざと置くことで、病に扮して捕食行動を誤魔化している。
しかし本来なら、数年のうちにもっと食われる者が出ていてもおかしくない。そうならんのは、巫女の伝説のおかげだろう。
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