妄仙胞子

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 死を覚悟した者の息遣いに感じた。 「……イヅナ。あんたは間違ってる」 「……え?」 「あんたのせいで皆が命を落としたわけじゃ無い。怪異の力がそうさせただけだ。  怪異も人と同じで生きている。動物が獲物を狩るのと何ら変わらない、世の中の理の一つ。何かが悪いわけじゃない。  甕にあるのは命を絶つためのものか?」  イヅナは口を結び、目を逸らした。 「良薬も量を(たが)えば毒となる。あんたの知識はそんなことに使うべきもんじゃない。怪異のせいではあるが、それでも償いたいと言うのなら生きてしろ。  ここまで怪異の侵食による痛みに耐え必死に学び、緻密な薬作りに勤しんできたわけだろ。加えて、人の信頼を確かに得られるその人柄……これらは、あんたにしか出来ないことに他ならん」 「私にしか……」 「もうこの村には、イヅナがいるだけで意味があるようになっている。思うとこはあるだろうが……怪異の奪った命の分、あんたが薬で救えばいい」  すると堰を切ったようにさめざめと涙した。その姿はあまりにも弱々しく、強いものだった。  その後、怪異を身から離す術を教えた。過去の全てを切り捨てろと。怪異の為したところの高揚感、絶望感、罪悪感。その一切を手放すようにと。そうすることで怪異は繋がりを弱らせスエが屠ることをできるのだ――  月の陰るその晩に、スエは決意宿したイヅナの身体から妄仙胞子を食い殺した。
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