妄仙胞子

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 結果としてイヅナは言葉と耳を失った。しかし面持ちは安らかだった。長い冬の終わりを知った草木のように――  明朝、俺たちはひそりと次の土地へ出立(しゅったつ)した。  日の登らんとする山を背に、前を行くスエが振り返り言う。 「しかしよくあんな大嘘をつけたものだな。村が食われるなどと。別にあやつが死のうが、次の宿主を見つけるまでじゃろ」 「あの村になくてはならない存在なんだよ。それに今度、薬が必要な時に尋ねることができるだろ」 「ほう。ま、いいがな」 「しかし……自分にしかできないことってのは存外、盲目なものなんだなーー」  それからというもの、村に流行病は起こらなくなったそうだ。  そして神力の代償として巫女はとうとう言葉や耳を失ったのだと、人々はより敬うようになったという。  やがて村には薬を学ぶ場所ができ、知識がより広められていったらしい。  怪異はイヅナに偽りの神力を手にさせた。しかし、同じくして真に己しか出来ぬことを露わにさせたのだ―― 了
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