妄仙胞子

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 腕を組むスエを横切り、先へと歩み出す。 「あ、こら待たぬか!」 「迷子んなるなよ、スエ」 「ならんわアホタレが!」  その後、旅籠(はたご)女将(おかみ)に話を聞くことができた。覚えの巫女についてだ。  女将は掃除の手を休め、嬉々として巫女が起こした奇跡を語ってくれた――  それは七年ほど前のこと。今でこそ活気ついたものだが、村は元来ここまで突出した活気があるわけでなく、そこらの村と同じ程度であった。  しかし流行病(はやりやまい)を機に、思わぬ形で(さかえ)の道を歩むこととなる。  当時の流行病は酷いもので、一晩のうちに体が痣まみれになり、患ったものは皆こう言ったそうだ。 「体の中で虫が()んでくる」  里の医者たちはお手上げだった。  しかしその折、三日ほど山に籠る雨乞いの儀から戻った娘が、神力を賜ったとして村人たちを次々治していった。これを大祓(おおはらえ)と呼んだ。  面妖な光を口に灯らせ、アザをあたかも煙のように吸い取っていくのだと。すると嘘のようにピンとし、これを見た者らは口を揃え奇跡と叫び、イヅナという娘を覚えの巫女と呼ぶようになった。  覚えの巫女とは、神に寵愛(ちょうあい)を受けた巫女という意。それまでは、祭祀(さいし)を執り行うごく普通の娘であったそうだ。
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