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噂は瞬く間に古今東西へ広まり……村にはその神力に肖らんとする者や、安寧を求め移住する者らがみるみる増えていった。
人が集まれば活気は増し、地も耕される。今しがた村で見た様子に至る経緯であった。
因みに三年ほど前にも流行病があり、その時も大祓によって救われたそうな。
俺は煙管片手に、感慨深く煙を燻らせた。
「なるほど。やはり一度、拝みたいもんだ」
「そだろ。彼女は村の生ける伝説さ。それだけじゃなく、いそしい子でね。雨乞いはとんと実らなかったけど、ははっ。それでも皆はあの子を好いてしかたないのさ」
「そのようだな」
ここに来るまでにいくらか、巫女のことを聞いた者は同じように慕う様子だったが、それは神力だけにないようだ。
「あんたも運がいいよ。この先の分かれ道を登って道なりに行けば、今日はきっといるはずだよ。連れの子も年端の行かない様子だし、薬の一つでも授けてくれるだろさ。
あの子が作るものは確かだよ。そこらの百味箪笥には入っちゃいない」
「そりゃ有難いな。ん……」
女将の目はいつの間にか向こうへ向いていた。
見やれば、軒先で近所の子らと問答しているスエの姿。さては、またくだらぬ意地を張ってるな。
しかし妙だ。女将の横顔はどこか裏寂しさを感じる。
「スエがどうかしたかい?」
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