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「あぁ……すまないね。あんたの連れの子見てたら、なんだかイヅナのその頃を思い出しちゃってね」
「大祓の頃はそのような年頃だったのか」
「そうさ……まぁ実は、気の毒な子でもあってね」
「どういうことだ?」
「亡くしちまったんだ。まだ十と少しほどの歳だってのに、家族も仲の良い子もね……。
大勢のもんは救われた。でも全員って訳じゃあない。あたしは、その救えた命の多さを讃えるべきだと思うけど。そりゃ、他人事過ぎるってもんかね」
「ふむ……いや、こうして案ずる時点で他人事とはならんだろうさ」
「ありがとね。でも、あのときからイヅナの胸には、小さく深い風穴が空いちまった気がするよ。
話せば明るく優しいことは、あの頃と何ら変わらないんだけど。逆にそれが不憫でもあってね……」
「そうか。難儀な話だな」
その力の及ばぬことにイヅナはどう思っただろう。救える力を持ちながら、救いたい者は救えずに。はて、こりゃ少し先が思いやられるな。
「すまないね、しんみりさせて」
「構わないさ、参考になった。早速、訪ねてみるよ――」
言われた場所へ向かう途中。石ころを拾って空に翳すスエは飄々と口を開く。
「しっかしの、どうするんじゃ。万が一にも、娘っ子が聞き分けの悪い頑固者であったら。ワシは食えんぞ」
「まだ、厄介な相手と知れた訳じゃないさ」
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