妄仙胞子

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 とは言え、聞いた話じゃイヅナは献身肌のよう。こういう実直な人間ほど、自戒が強く介入の余地が狭い。いっそ、跳ねっ返りを諭す方が楽なのは事実だ。  真実を知った時、頑なに自らを否定されては……どうしたものか。 「しかしまぁ、あれらも呑気よ。今年か来年か、また流行病は起こるというに。全て迷妄(めいもう)の所業とも知らずにな」 「そう言ってやるな――」  雑木林に囲まれる少し高い場所には長屋があった。  軒先には干された果物や、包まれた野菜が多く見掛けられる。村人達や来訪者の供えていったもんだろう。  すると前から百味箪笥を背負った男がやってきた。 「お、もし。あんたたちもお目にかかりに?」 「ああ、近くまで来たもんでな。薬にも詳しいと聞いたが本当かい」 「ああ、ありゃ仙人の域だ。二足の草鞋(わらじ)を履けるだろうに商売としないなんざ、勿体ないこったよ」 「薬は売ってるわけじゃないのか」 「御守りみてーなもんで授けてるんだとよ。かつてあった流行病を境に、薬のことを学んでったそうだ。神力だけでも有難い話なのに、なんともまぁ心優しい巫女様だよな。  あんたも良い縁ができたじゃねえか。ほんじゃ達者でな」 「ああ。あんたもな」  どうやら薬の知識は本物らしい。しかしどうしてそこまで……治す術の模索か?  いや違う。まさか、そういうことか―― 「おいキクリ!」
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