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「わっ、なんだいきなり。脅かすんじゃね!」
「聞いてたより歳いっておるぞ、ほれ見よ」
強ばらせた顔で指差す方へ目を向けると、四十手前ほどの女がいた。
「これは見当違いか。歳を取らせる怪異だったかの……」
「はぁ。馬鹿言え、母親だろ」
そっちへ行くと女は「あら、またお客さん。娘に御用ですか」と柔らかく声をかけてきた。
「ええ。見聞師のキクリと申します。こっちは見習いのスエです」
女は顔を一瞬だけハッとさせた。
「ん、何か……?」
「あ、いえ。ただ聞いたことがあったから。たしか、奇怪なものを見聞きして巡る方でしたね」
「ええ。いくらかは同業がいるようで」
「そうですか。私はイヅナの母、ハツナと申します。娘に話を聞きに来た、ということですか?」
「ええそんなとこで。妙薬も興味深いですがね」
「ふふ、そうですか。娘なら奥にいます。さ、どうぞこちらへ」
木床がミシリと音を出す廊下を行き、襖の先へ通された。そこは書物が所狭しと置かれる一間。縁側に面しており、囲む山並みと共に下には田畑や村が一望できる。
隅に置かれた甕には、薬の原料と思しき草が収められている様子。
そして二十ほどか。藍染め縞紋様の着物を来て座する娘が一人。羽織る縹に黒い髪がすーっと流れている。しかし、この時期に随分と厚着だな。怪異のせいか。
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