妄仙胞子

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「なに、構わんさ」  その後、イヅナの言葉と共に書物へ目を通していった。どれも細かに調べられていた。大層根気のいるもんだったろう。  調合だけでなく薬草のいろはがつぶさに。絵も上手い。あの薬売りが言う通り、仙人にもならんとする勢いだ。  座り込み耽読(たんどく)した俺は、書を返しながら言う。 「……こりゃ、凄いな。こんな細かなものは初めて見た」 「ありがとう。薬なら、確かに皆が使える力となる。そうすればもっと望みを持てるでしょ。こんな奇怪な力に頼ることもなく」 「そりゃまた、随分と卑下するんだな。  しかし人は良くも悪くも人知を越えたものに理想を抱く。例え夢幻(ゆめまぼろし)という希望でも、それ相応の意味はあると俺は思う。  もっとも、あんたの力はそれと言えんが。まぁ、例えだ」 「ふふ、面白い例え」 「ところで、さっきスエを見た時にどこかハッとしたように見えたが、何か思い当たったか? 勘違いなら、すまないな」  イヅナは切なく笑む。 「……実は、ミスズという妹がいたの。もし生きてたら、ちょうどそのくらいになると思ってしまって」 「そりゃ例の、流行病で?」 「ええ。父は治せたけど、妹は……。  でも結局、持病のせいで父も他界した。もし薬があれば治せたかもしれないのにね」  薬作りの起源はそこではないな。恐らく、こいつの望みと自責からだろう。しかしそれをこうもやってのけるのには、たまげるばかりだ。
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