ウィルヘルム・ローズの冒険譚

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ゲームをしようって誘われたのよ 紙とペンとサイコロ二つ 「私が物語を考えるから 登場人物を一人ずつ 今からそれぞれ作ってちょうだい みんなでそれになりきって 夢の世界で冒険しましょ」 ああ、なんて素敵なお誘いかしら 舞台は遙か遠い国 剣と魔法のファンタジィ ルールブックを手渡され あれこれ悩む昼下がり 魔法使いって大変そうね 呪文をいっぱい覚えなきゃ 私とってもできっこないわ 他にはどんなお仕事があるの? 盗賊なんてどうかしら? それもとっても出来っこないわ 賢くないと務まらない 私とっても悩んだけれど 普通の戦士に決めたのよ 剣や盾や白馬に乗って 世界を救う勇者様 それはとってもこそばゆくって 鎧を着せてはあげたけど 大きな斧を持たせたの あなたは戦士なんだから 背丈も高くしてあげる 優しい人がいいわよね 意地悪な人は苦手だもの 名前はどうしようかしら 私とっても困ったの そんなのすぐに決められないわ だから机の上にあった 歴史の教科書を開いたの ウィルヘルム、そうね、それがいいわ きっと皆から親しみを込めて 「ウィル」って呼んで貰えるものね 名字はどうしようかしら すると窓辺の一輪挿しの 薔薇が私に微笑んだ ウィルヘルム・ローズ はじめまして もう一人の私 ぶきっちょで優しいのっぽの戦士 新しいぴかぴかの鎧 けれどその大きな斧はちょっぴり 不釣り合いだったかしら? 相棒には賢い魔法使いの青年 幼なじみなんですってね 一緒に町から飛び出して 向かう先は王国の首都 仲間にはしっかりものの女の子 手先がとっても器用なの どんな鍵も開けられる 竪琴だって奏でちゃう きらきらころころはねるサイコロ とっても楽しそうな友達の笑顔 みんな本当にすごいのね もうすっかり世界に馴染んでる 賢くって優しくってしっかりしてて 丸でここにいる友達そっくりね ウィルヘルムの仲間達 けれど私っておばかさん その日はちっとも喋れなかった 緊張しすぎていたからかしら まだまだ慣れてないからかしら でもウィルヘルム、私もっとあなたを いっぱい活躍させてあげたいわ そして始まった物語 謎とスリルに満ちあふれ、 魔法使いの青年や 竪琴の女の子がキラキラと ファンタジィの世界を駆け巡る そしてえっちらおっちらと 二人の後ろを追いかけるのは のっぽで優しい斧の戦士 大好きな友達に置いて行かれないように 私は必死でサイコロを振って あなたの台詞を一生懸命考えるのよ ねえウィルヘルム・ローズ 私、頑張れるかしら とってもこのゲームは難しいわ 考えてる間に置いて行かれちゃうの 本や映画とは違うのね ついていくのが精一杯 私ってなんて馬鹿なのかしら ああごめんなさい、ウィルヘルム・ローズ 私がもっとしっかりしていればよかったの 私のせいであなた、素敵な戦士になれなかった お願いだから、がっかりしないで そんなに落ち込んだりしないで 私まで悲しくなってしまうわ 全部私のせいなのに 窓辺で空しく転がるサイコロ あなたの名前が書かれた紙が はらりと机の下に落ちる 変ね、ただのゲームなのに 追いつけないのが悔しいなんて 紙とペンとサイコロ二つ 挟んだ間のむこうとこちら 何て「わたし」は情けない 背中合わせの二人は一緒に 空を見上げて切ない溜息 それでも続く物語 今度はどうなってしまうのかしら みんなの足をひっぱらないように みんなに迷惑かけないように 私今日こそ頑張らないと 必死で握るサイコロ二つ ねえ、ねえみんな そんなにも速く走っていかないで 私置いて行かれちゃう 本当はとても悲しいのよ いつも背中ばかり見てる ちょっとは役に立ちたいのに なんにも出来ないおばかさん 息切れしながら走るだけ ああ、ウィルヘルム・ローズ あなたもこんな気分なの? ふがいなさや失敗は 誰のせいにも出来ないわ 私ちっともつよくない 顔で笑って心で泣いて 必死でそれを押し隠す 紙とペンとサイコロ二つ 挟んだ間の向こうとこちら 二人は必死で追いかける ペンを持つ手が震えちゃう 何だか涙も出て来ちゃう けれど頑張って 私の戦士 のっぽで優しい ウィルヘルム・ローズ 不器用な私の掌の中で 不器用に斧を振り回す 私もっと成長するわ あなたと一緒に冒険するために あなたをもっと輝かせるために 窓辺の薔薇が風に揺れて ルールブックに花びら運ぶ ねえ、ウィルヘルム・ローズ 私の大事なのっぽの戦士 また一緒に冒険してくれる? 私はあなた、あなたは私 手のひらで光るサイコロを キラリキラリと転がしながら 一緒に旅を続けましょう
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