レンタル神様

8/9
前へ
/9ページ
次へ
 狐は厳かに頷く。  あれだけ立ち上がるのに必要な力が入らなかったのに、今はすくっと立てる。  私が朝起きて最初に向かう場所は、いつも決まっている。洗面所だ。  洗面所で顔を洗い、歯を磨き、外に出かけたい気分だったので余所行きのお気に入りの服を着て、髪もセットして、朝ごはんを用意…。  しかしふと、良いことを思いついて狐に呼びかける。 「朝ごはん、食べに行かない?」  にっこりと嫌な笑顔で狐に誘いを持ち掛ける。  狐も同様に、悪い顔をして応じる。  その日の朝ごはんは、なんとカフェで食べた。 「ん~美味しいっ! こんなの初めてだーっ! いつもはお金ないし、朝ごはんすら食べてないのに、今日はクローゼットの奥から結構なへそくり出てきたし、こんな贅沢しちゃった~!」  幸せそうに優雅に朝ごはんを食べるのは、間違いなく私である。  しかも、手元にはおしゃれに小説まで常備。  その後は、行ってみたかったところに行くことにした。  しかし、結局高そうな洋服屋さんに目が行って、その流れでショッピングモールにまで行ってしまった。  そこでは、こんな素敵な服に巡り合ったことないと思うほど素敵なお洋服に出会ったり、店員さんと意気投合してお喋りしたり、たまたまハンカチ作りのイベントがあって参加したりと、これでもかと言うほど楽しかった。  だが、今日と言う日はもう終わる。  何があっても朝が来るように、夜も来るのだ。  夕ご飯は、誰かと食べたい気分になったので、久しぶりに昔付き合ていた恋人に電話してみた。  奇跡的に繋がり、予定も合ったので食べることに。  急ではあったが、とても楽しかった。  たわいもない話をした。  最近どう? とか、この料理美味しいね、とか。ホント、どうでもいい話をした。でも、私にとっては、楽しかった。輝いていた。  
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加