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暗っ。え? ここ、どこ?
真っ暗闇が、自分を包む。
暗闇があまりに深すぎて、自らの手の輪郭すら見えない。
そんな暗闇は、声すらも吸収してしまいそうだ。
しかしふと、目の前に明かりが現れる。
明るい、と表現するよりは、神々しい、と表現した方が適切な気がする。
暗闇の中で光る光は際立つ。やがて、辺りは晴れた昼間のように明るくなる。
その発光源は——
「い、いぬ…? いや、きつね、かな…」
眼前には、白い見事な毛並みを持つ狐が現れる。
狐がふと、口を開ける。
「失礼やなぁ、あんな犬っころと一緒にするなんて。」
少年のような、しかし聞き方によっては少女の声、老人の声にも聞こえなくもない。
不思議な雰囲気を纏った狐は、当たり前のようにその大きな口から言葉を発した。しかも、関西出身でしたか。
思わず驚きそうになるが、首を振って気を確かにする。
こんな奇妙なことが起こって不思議じゃないと言えるのは、夢しかない。
そうすればさっきまで暗闇だった理由も、眼前の神々しい狐が当たり前のように言葉を発する理由も、納得が行く。
でも、なんとなく気を落とす。
これが日常だったら、さもすごい刺激だったろうに。
——神田狛はなんでもない日常に、刺激が欲しかった。
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