こぼれ日が恋しい。

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こぼれ日が恋しい。

真昼でも薄暗く、ジメジメとした青い花畑を彼に手を引かれ足早に進む。3つの青い花はいつも何処かを見ている。青い花を過ぎると立派な大木が立っていた。大木は花の変わりに鈴が沢山咲いていた。 彼が言った。 「この木の桃は美味しいよ」 彼は私と手を繋いだまま大木から鈴を手に採って私の手におさめた。 「お食べ」 私は拒んで鈴を彼に手渡した。彼は悲しい顔をした。すると突然大木の全ての鈴が次々と地面に落ちた。私は怖くなり彼の手を離して来た道を引き返した。3つの赤い花を越え真っ赤な花畑を進む。走っても走っても真っ赤な花畑を抜けることが出来ないでいると目の前に彼が現れた。 彼は微笑んで私に手を差しのべた。 私は彼の手を取ろうと足を踏み入れた。 「あと4歩…」 彼が囁いた。 が、やはり私は拒んだ。 彼の瞳から涙がこぼれ落ちた。涙が地につくや否や周りの花畑は青く染まってゆく。 花に気を取られていると彼はいなくなっていて、彼が立っていたところには青い彼岸花が咲いていた。 それから月日が流れ私は朝焼けが綺麗な時間に毎日彼、もとい彼岸花に水をやりに行った。私以外の人間はこの彼岸花を見つけることは出来ないみたいだ。 私が水をあげなくては…。 私は変に執着してしまった。 私が拒んだせいで彼は溶けたのだ。 いつ行っても彼岸花は綺麗な顔でこちらを見つめ返していた。 あの日も朝焼けが綺麗な時、私は水を持って彼岸花のところへ向かった。その日は霧が出ていてみるみるうちに霧が濃くなっていった。せいぜい赤い彼岸花が目視出来るくらいだ。 風も出てきた。冷たい風が鈴揺らした。 チリン チリン 霧で見えないがこの先に、あの時に見た大木があると思った。 何処からか声が揺るえた。 「綺麗な夕焼けだね」 彼が言った。 距離でいうとあと4歩先に彼がいる。 私は3つの赤い彼岸花の先に、足を踏み入れた。
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