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「てめぇ、誰に向かって……」
「ストップ折坂。話しかけられてるのは俺なんだから邪魔するな」
額に見たことない筋を浮かべる折坂を右手で制する。目が据わってるし、放っておくと流血沙汰になりかねない。
「……うす」
渋々ではあるが折坂は引き下がる。俺のために怒ってくれてるんだからいいやつなんだよな。
などとしみじみ感動していると、
「いい人分なよ、いくじ無し」
平手で左頬を張られた。
あまりに乾いたいい音がしたので頬ではなく耳が痛い。
予期せぬ不意打ちに俺は目を瞬かせた。むしろびっくりし過ぎてそれしか出来なかった。
「ほら、もう一発」
振り切った右腕がまた戻り、手の甲で右頬をぶたれた。
え?何でこいつこんなに思い切りがいいの?もらった全給料を馬券に注ぎ込むタイプか?
驚いたのは俺だけではなく、取り巻きも見かねて止めに入る。
「お、おい。その辺にしとけよ」
「はっ、いい機会だろ。見ろよ全然抵抗しねぇ。やっぱり噂だけだわ」
右頬を殴られたら左頬も、とどこかで聞いた。
だけど俺は信仰してないし、ここは日本だ。
だから顔面目掛けて飛んで来る拳は容赦なく捕まえる。
「……仏の顔も三度までって知ってるか?」
握る手をマヨネーズを使い切るように絞り上げる。
「あいっ!?やめっ、折れる!」
「そーか、折れるのは嫌か。だったら!」
腕を掴んだまま思いっきり投げた。一本背負いではなく槍投げの要領で。
弧を描き15mは飛んだだろうか。残り2人も慌てて駆け寄った。
見下ろしながら指の関節を鳴らす。湿気った爆竹のような音がした。
「さて、次は馬頭星雲あたりまで行っておくか」
「ひ、ひぃっ」
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