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これは確かに金ヅルにされそうだなと勝手に評していると、その顔には馴染みがあることに気付く。
「あれ、つーか犬洞君じゃん」
人違いではなかった。困ったように微笑を浮かべ、彼は小さく手を上げた。
「やぁ、矢浪君。ありがとね助けてもらっちゃって」
気軽に話を進める俺達を見て折坂が訊いた。
「矢浪さん、この人知ってんすか?」
「同じクラスなんだよ」
犬洞は眼鏡の位置を直し、教室にいる時と同じよう控えめな声で言った。
「初めまして。2年5組の『犬洞月雄』です。折坂君、だったかな?君も助けてくれてありがとう」
初対面の折坂に対してはきちんと頭を下げる。俺と犬洞はある程度知った仲だからそこまでしなくてもいい。
俺と犬洞の境遇は似ている。同じクラスになって数ヶ月だけど、あまりクラスに馴染めず大抵机に突っ伏しているのが犬洞だ。俺もずっと窓の外を眺めているので大差はない。
つるむまではいかなくとも、孤立している者同士、どうしても手を組む機会が存在する。学校ってのは複数人を強制する回数が多くて困る。
そんなコミュニケーション弱者共の微弱な繋がりなど知る由もなく、ヤンキーのくせにスマホのAIアシスタントに語り掛けるが如く女子との会話を可能にするスタイリッシュヤンキーな折坂が口を開く。
「それで、犬洞君は何で金取られてたの?」
早くも君付けでタメ口だった。一応犬洞は先輩なんだけどな……。
「えっと、さぁ、どうしてだろうね?」
礼節に欠けた態度よりも、あまりのストレートな問いかけに戸惑っている。
まぁ、虐めを始める動機は虐める側にある。被害を受けている側に尋ねるのは酷だろう。
犬洞はへらっと笑い、
「ほら、俺弱そうじゃない?だからじゃないかなぁ」
参った参ったと、締まらない顔で現状を受け入れている。案外犬洞は肝が据わっていた。
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