08_それぞれの思惑

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ー♢ー  水原達と別れてから2時間が経過しようとしていた。  部屋に戻ってからというもの、半分に畳んだ座布団を枕にしてずっと天井を眺めている。  あの場を離れるために利用したグレイスへの報告は全く考えていない。  そんなもんはグレイスの幹部でもある師匠に任せればいいんだ。これを機に理不尽な任務を押し付けられるかもしれないけど、背に腹は変えられない。  それに2年生に進学してから師匠には一度も会ってない。流石にそろそろ顔を出さないとなと思い始めていたので会う口実としては丁度いい。  では直近で俺が片付けなければならない問題は何か。それが上手く定まらず、こうして横になって時間だけが過ぎていく。  どうして大神さんは歌を歌っていたなんて嘘を吐いたんだ?犬洞の両親の死の真相は?何故今日に限って虎枯会長は車のタイヤを破裂させた?従業員を襲った森の化け物の正体は?  この2日間で生じた疑問が次々と溢れ出す。  真相を突き止めるには明らかに情報不足だ。本来ならばこんなことをしている場合ではない。水原達と手分けして聞き込みなり何なりすればいい。  すべきことは分かっているのにどうにも体が動かなった。  面倒だから行動を拒否しているのではない。少なくともネガティブな理由ではないと言い切れる。  ただ漠然と真実を解き明かすのに抵抗があった。分からないままの方がいいんじゃないかと、俺の直感が囁いていた。
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