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疑問だらけの霞がかった頭の中で唯一明白な事実が眩く光る。
こればっかりは俺がどうにかしなければならない。しかも後回しに出来ないのが難点だ。夕食後には動かなければならない。
裏を返せば夕食までは時間がある。横になるのもいい加減飽きてきた。体を起こして座布団の上に座わる。
さてテレビでも見るか、それともいっそのことトランプタワーでも作るか。
究極の2択は前者に傾き机の上にあるリモコンに手を伸ばす。ところが視界の端に映った物に気を取られた。
押入れの上。今まで気にもしなかったところに飾られた額縁。
中に収められているのは風景画や誰それの有難い言葉ではなく詩、もしくは歌詞のような文章だった。
「岬峠の唄?」
題名なのか1回り大きな文字で書かれた1文。
唄というキーワードが今の俺には暗示的に映る。その後には次のように続いていた。
『岬峠に吹く風に
君の唄が運ばれる
返す僕の唄声は
遠くの君へ届くだろうか
いつかどこかで出会えたら
一緒に唄おう本当の声を』
捻りもなく素直に読めば恋心を綴った詩になるのだろうか。その辺りは専門外過ぎて断定は出来ない。
それよりも注目すべきはやっぱり唄だ。
大神さんは夜に歌い、直売所の富江さんは森の神様を鎮めるために歌を用いたとも言っていた。歌とこの村には切っても切れない縁がある。
そして最後に置かれた本当の声。
本音、ということなのか。だけど一緒に唄おうともある。互いの気持ちを曝け出すって意味か?
どうもしっくりこない。なのに妙に心をざわつかせるのは何故だろう。
会えた時に本来の声で唄う。つまり普段は嘘、偽り。いや、深読みが過ぎるか?
またも思考が回転し始めた、その時、
「いかがですかな」
不意を突くように艶のない声が鼓膜に響いた。
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