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「びっくりしたぁ。犬洞君のおじいさん?」
黒の和服に身を包んだ皺の多い老人。
犬洞兄弟の祖父でありながら、別の立場があるのを思い出す。
「失礼しました。師範とお呼びすべきでしたね」
急いで訂正すると、ゆっくりと首を振った。
「師範などとんでもない。そう呼ばせるのは正式な門下生の孫達だけです。好きに呼んで下され。因みに若い頃はツッキーと呼ばれていました」
ほっほっほと愉快そうに笑う。
いやいや呼べるかい。意外とファンキーだなこのじいさん。
「じゃあ犬洞さんと呼ばせて頂きます」
「そうですか……」
あれ、ちょっとがっかりしてる?気のせいだよね?
「あの、犬洞さんはいつからここに?」
「少し前ですかな。念のため入口も叩きました。深く黙考されてたので気付かなかったのでしょう」
大した集中力だと褒めてくれるのはありがたいけど、返事がなかったら普通は入らなくないかな?家主だから別にいいんだけど。
犬洞のおじいさんは結構変わった人らしい。観察する間もなく押入れ上の詩に目を移した。
「先ほどは熱心に見られてましたな」
「えぇ、ちょっと思うことがありまして」
「面白い文でしょう」
興味を持ったのを喜んでくれたらしい。目尻の皺がいくらか濃くなる。
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