08_それぞれの思惑

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 「びっくりしたぁ。犬洞君のおじいさん?」  黒の和服に身を包んだ皺の多い老人。  犬洞兄弟の祖父でありながら、別の立場があるのを思い出す。  「失礼しました。師範とお呼びすべきでしたね」  急いで訂正すると、ゆっくりと首を振った。  「師範などとんでもない。そう呼ばせるのは正式な門下生の孫達だけです。好きに呼んで下され。因みに若い頃はツッキーと呼ばれていました」  ほっほっほと愉快そうに笑う。  いやいや呼べるかい。意外とファンキーだなこのじいさん。  「じゃあ犬洞さんと呼ばせて頂きます」  「そうですか……」  あれ、ちょっとがっかりしてる?気のせいだよね?  「あの、犬洞さんはいつからここに?」  「少し前ですかな。念のため入口も叩きました。深く黙考されてたので気付かなかったのでしょう」  大した集中力だと褒めてくれるのはありがたいけど、返事がなかったら普通は入らなくないかな?家主だから別にいいんだけど。  犬洞のおじいさんは結構変わった人らしい。観察する間もなく押入れ上の詩に目を移した。  「先ほどは熱心に見られてましたな」  「えぇ、ちょっと思うことがありまして」  「面白い文でしょう」  興味を持ったのを喜んでくれたらしい。目尻の皺がいくらか濃くなる。
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