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「これは失礼。ただこれだけ歳を重ねておりますと、不思議なもので目を見るだけで人となりが分かるのです」
経験がなせる技か。俺にはまだ漠然とした印象しか感じ取れない。
「目だけで分かるものですか?」
「分かります。これでも人を見る目だけは確かです」
これまでの静けさとは打って変わってはっきり言い切る。その裏側には不動の自信が垣間見えた。
その熟練の観察眼に俺はどう映っているのか。好奇心とひと匙の意地の悪さが混同する。
「いい目と仰いますが、どんなところがいいのでしょうか」
「絶望です」
軽い気持ちで聞いてみたのに、返って来たのは恐ろしい簡潔な一言だった。
冷や水をぶっかけられた気分でいる俺に犬洞さんは補足を始める。
「あなたの目には絶望が根付いている。どんな経緯があったかは存じませんが、苦い思いを重ね底に落ちた者特有の色がある。違いますか?」
返す言葉が見つからない。沈黙は肯定を意味していた。
「絶望というのは表現がよろしくなかったですな。諦め、とでも言い換えましょう。諦めを知る者はかつては希望を抱いていた。その大きさは人それぞれでしょうが」
「絶望……諦めている人間はいい目なんてしないんじゃないですか?」
なけなしの反論に犬洞さんは首を振る。
「もちろんそれだけならば私も言いますまい。確かにあなたの目には絶望が宿る。それでいてなお、光を湛えている。だからいい目だと評したのです」
犬洞さんの口角は心なしか上がっていた。
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