08_それぞれの思惑

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 「薄暗く沈む瞳の奥に先を見据えた光がある。つまりあなたは立ち上がった。重くへばりつく泥、または幾重にも巻かれた鎖を振り切り、駆け出した証拠です」  身に覚えがない、訳ではない。ただ全て的中しているとは言えない。  俺は犬洞さんと視線を合わせた。  「俺は人に救われました。1人だったら泥沼に沈んだままです」  古閑先生、S研の皆、五十鈴、ハカセ、師匠と身近な顔を思い浮かべる。  「その縁を大切にしなさい。決して自ら断ち切ってはいけません」  優しくも荘厳な物言いはまさに師範と呼ぶに相応しい。客人ではなく1人の人間として向き合ってくれていた。  「言われなくてもそのつもりです」  無意識に生意気な口を利いてしまった。謝罪する前に犬洞さんは満足そうに頷いていた。  「それでよいのです。……月雄にもこうなって欲しいものですが」  「犬洞君、ですか?」  犬洞さんの表情は沈んでいた。  「あの子は孫の中で最も難儀な性格をしています。不器用でありながら頑固者です」  俺の犬洞に対する印象とはだいぶかけ離れていた。  「とてもそんな風には見えませんけど」  「ええ、見えますまい。あの子の心の底、ある種基盤になっているところですから。本人すら自覚しているのか怪しいものです」  流石に心の底までは読み取れない。それも本人に自覚無しとくればお手上げだった。
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