13人が本棚に入れています
本棚に追加
「それでも月雄は諦めたくなかった。その一心で突き進んだ先には待っていたのは怪我です。中学2年、月雄が己の限界を知った瞬間でもありました」
気持ちに体が追い付かない。そのもどかしさに直面した犬洞はどんな気持ちだっただろうか。
「諦めて欲しくはなかったのですが、あれだけの鍛錬を積んだのだから月雄という個体の限界だったのでしょう。
同じ血が通っているのに兄のようになれない。改めて突き付けられた現実に月雄は徐々に無気力になりました」
息を吐くて一度区切る。犬洞さんは全て話すつもりのようだった。
「先程も述べたように月雄の根は頑固です。一度目指した夢が折れた状態でこの村に残っていても自身の無力さに苛まれるだけ。そう判断して中央都の高校進学を提案しました。新たな可能性を、選択肢を広げて欲しかったのです」
強靭な壁を前に先へ進めなくなっても人生は続く。別の道を提示するのも指導者の立派な務めだ。
「進学には素直に従いましたが、月雄には辛い思いをさせたかもしれません。我々の助言の正否は今も月雄の中にあります」
直接聞き出すには勇気が要る。それでも俺は犬洞さん達が間違っているとは思えなかった。
「正しいかどうかはともかく、俺はいつも犬洞君に助けられてますよ。今もこうして貴重な時間を過ごせてますし」
2人が犬洞を想って送り出さなければ俺達は出会わなかった。
犬洞さんはどこか救われたように表情を和らげた。
最初のコメントを投稿しよう!