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「ありがたいお言葉です。あなたを招待した甲斐があった」
笑顔で細めた目を一度閉じる。時が止まったような一瞬の後、誠実な目で向き合う。
「長々とじじいの戯言に付き合ってくれてありがとうございます。これで最後です。どうか、月雄をお願いします」
犬洞さんは両手を付いて深く頭を下げた。
「いや、何もそこまでしなくても。顔を上げて下さい」
これじゃほとんど土下座も同じだ。慌てて言うと曲がった背中がゆっくり戻る。
「仲良くして下さいとは言いません。月雄は1人が好きなので放っておくくらいが丁度いい。ですが、道を誤りそうな時、一言声を掛けてやって欲しいのです」
「道を誤る?犬洞君が?」
これは持論ですがと断り、
「才に恵まれない者はまずは1つを極めようと懸命になります。それは良いことですが、度がすぎるといけません。固執は視野を狭め、時に誤った道を歩んでいることに気付かなくなる」
悲しげに眉が下がった。
「月雄には余裕がありません。常に何かに追われているように事を急いでしまう、不器用な孫なのです」
俺にも覚えがある。
弱いのが嫌で痛いのが嫌で馬鹿にされるのが嫌で、一刻も早く強くなりたかった。追い立てるのはいつだって自分自身だ。
その結果師匠に弟子入りし、これが全ての間違い……ではないな。つまりよく考えるのは大事だって話。
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