08_それぞれの思惑

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 「ありがたいお言葉です。あなたを招待した甲斐があった」  笑顔で細めた目を一度閉じる。時が止まったような一瞬の後、誠実な目で向き合う。  「長々とじじいの戯言に付き合ってくれてありがとうございます。これで最後です。どうか、月雄をお願いします」  犬洞さんは両手を付いて深く頭を下げた。  「いや、何もそこまでしなくても。顔を上げて下さい」  これじゃほとんど土下座も同じだ。慌てて言うと曲がった背中がゆっくり戻る。  「仲良くして下さいとは言いません。月雄は1人が好きなので放っておくくらいが丁度いい。ですが、道を誤りそうな時、一言声を掛けてやって欲しいのです」  「道を誤る?犬洞君が?」  これは持論ですがと断り、  「才に恵まれない者はまずは1つを極めようと懸命になります。それは良いことですが、度がすぎるといけません。固執は視野を狭め、時に誤った道を歩んでいることに気付かなくなる」  悲しげに眉が下がった。  「月雄には余裕がありません。常に何かに追われているように事を急いでしまう、不器用な孫なのです」  俺にも覚えがある。  弱いのが嫌で痛いのが嫌で馬鹿にされるのが嫌で、一刻も早く強くなりたかった。追い立てるのはいつだって自分自身だ。  その結果師匠に弟子入りし、これが全ての間違い……ではないな。つまりよく考えるのは大事だって話。
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