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「分かりました。異変があればそれとなく訊いてみます」
「よろしくお願いします。これで心置きなく送り出せます」
杖を支えに、足に力を込めて立ち上がる。
「貴重な時間を年寄りの戯言に割いてしまいましたな」
「いえ、お話し出来てよかったです」
これはお世辞ではない。今の俺には興味深い話だった。
ではこれでと振り返る前に、俺は呼び止めた。
「あの、俺からも1ついいですか?」
「もちろんです。何なりとお申し付け下さい」
嫌な顔1つしないのがむしろプレッシャーになる。
生唾を飲んで禁断の質問を投げ掛けた。
「犬洞さんなら虎枯会長をどうしますか?」
この村に降りかかる災厄の権化。どうしてもこの人の意見は切っても切れない。
虚を突かれ目を丸くし、犬洞さんは微笑んだ。
「私はやがて朽ちる枯れ木。これから先、何を残すも増やすもありません。全ては孫達の自由です」
ですが、と切り返すその目には確かに熱が帯びる。
食い殺さんとばかりに獰猛で攻撃的な憎しみが炎となって揺らめいた。
「あと10年若かったら、生まれて来たことを必ず後悔させていた、とだけ言っておきましょうか」
鋭い表情はするりと解け、ほっほっほ、ととぼけて笑いながら、犬洞さんは部屋を出て行った。
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