09_そして夜①

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 ---  台風が来れば吹き飛んでしまいそうな道場でも電気はしっかり通っている。  明るさは大して変わらないはずなのに、やっぱり昼とは雰囲気が違う。人工の灯りに照らされた空間はどこか作り物めいていて、どうも現実味が薄い。  それでも瞑想をすれば自分だけの世界。場所や時間に囚われず、常に一定の心を保つことが出来る。  吸った息を全て吐き出し空にする。何もない腹の奥そこから眠っている力を呼び起こすイメージで気を(おこ)す。  「いい集中力だ。慣れてくると瞑想しなくても自由に気を使えるようになるよ」  師範代が誉めてくれるのは素直に嬉しい。だけど問題はここからだ。  犬洞流拳術•鉄星破軍これがかなり難しい。  気を一箇所に集める作業を甘く見ていた。基本だけでも大変なのに実践では動きも加わって難易度は跳ね上がる。  しかもこの技誤魔化しが効かない。師範代の手本を見てると成功した時は空を切る音が通常のそれとは別物だ。100%じゃないとこの音は出せない。  「ほんとに出来んのかなこれ」  一向に上手くいかず思わず弱音を吐いてしまう。  「大丈夫。最初から上手くいく人なんていないよ。奥義と言っても所詮は技の1つ。要は慣れなんだ」  慣れとは聞こえがいいけど、それはコツを掴んで正しい方向に進んだ場合に限られる。闇雲に練習しても一生届かないと同義だ。
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