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気を溜めて正拳。深呼吸して集中し、右手に気を集めて正拳。これを繰り返す。動きは少ないはずなのに大粒の汗が床に落ちる。
「よし、そろそろいいだろう。実践に移ろうか」
息を整えながら俺は訊いた。
「実践?組手すか?」
師範代の鉄星破軍を食らったら体ごと貫かれてもおかしくない。
「組手ではないよ。体験入門最初に石を砕いてるのを覚えてるかな?」
「覚えてますよ。度肝抜かれました」
「あれは鉄星破軍を抑えて使ったんだ。ゆくゆくは君も出来るようになるよ」
今のところ自信は無い。漫画みたいに手が腫れ上がるのが目に見えている。
師範代はどこからともなく鍵を取り出した。
「この道場の先に古い倉庫があるんだ。僕も後から行くから先に行って石を持って来て欲しい」
石って常備してあるもんなのか。うちではお袋が漬物樽に乗せてる1つしかない。
「了解っす」
「よろしく頼むよ。あと懐中電灯も」
「どうも」
ところがこの懐中電灯は使わなくて済んだ。
時間は夜7時を少し回っている。本来なら真っ暗な夜道を月明かりが照らしてくれる。
日中のようにはいかなくてもしっかりと視認は可能だ。せっかくだから灯りは無しで行こう。
村の中には街灯が見当たらない。田んぼや畑を囲んだ獣避け電線の本体が小さな赤い点を発光している。
騒々しい中央都と比べると静か過ぎて不安になる。だけど1年に1.2回くらいは原点の自然に帰るのも悪くないかもな。
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