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「ここか」
すぐ隣かと思ったら倉庫はそこそこ離れていた。
奥ばった場所に佇む倉庫は道場よりも古めかしい。土壁は剥き出し。頭上には巨大な蜂の巣がくっ付いている。
重厚な引き戸には錆びついた南京錠が取り付けられていた。
特異能力の磁力を使えばあっという間に外せるけど、下手に弄って壊れても困る。面倒でも預かった鍵を差し込んで捻ると意外にもすんなり解除された。
見た目通り重い引き戸を開ける。ひんやりとした空気を皮膚が感じ取った。
「なーんか気味悪りぃな」
中に入ると空気が変わった気がした。
車が2台は入りそうな広さ。右側には歪んで錆びている棚。歴史の本に出て来そうな使い道もわからない道具が散見される。
棚の上には埃を被ったトロフィーや盾が乱雑に置いてあった。
指で埃をなぞる。そこには犬洞月成と彫ってあった。
「師範代のじいさんか」
名前は初対面の際聞いていた。だいぶヨボヨボだったけど現役の頃は強かったんだな。
過去の栄光には興味がないらしい。そのスタンスはかっこいいけれど、こうして放置されている姿を見ると一抹の寂しさを拭えない。
しかし、肝心の石が見当たらない。古びた自転車の裏、ドラム缶の中、どこを探してもありやしない。
1番奥か。そう思って角を見ると縦に長く円柱のようにシートが掛けられていた。
「あれか?」
近付いて手を伸ばす。触れる前に体が固まった。
見覚えがあるシルエットだった。このシートも何度も目にしている。
でもここにあっていい物ではない。いや、あるはずがないんだ。
だって師範代はあの時、今は無いって言ってたんだから。
猜疑心ごと振り払うように俺はタイヤの保管シートを引き剥がした。
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