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悪い予感は的中した。
積まれたタイヤは4つ。大きさはハイエースの物と大差ない。間違いなく取り付けは可能だ。
恐る恐る触ってみる。
固い。空気は入っている。
溝も深い。走るのに問題はない。
「タイヤ、あるじゃん。どうして嘘なんか」
いや、決め付けるにはまだ早い。当然ながら忘れていた可能性もある。
滅多に入らない場所なのは溜まった埃が証明している。じゃなきゃあんなに、
強烈な違和感。
「俺、電気付けたっけ……」
手に握った懐中電灯は使っていない。倉庫に入ってからもスイッチを押した記憶は無い。
ここまでの道のり同様、月明かりの延長とでも思っていたのだろうか。
倉庫の奥まで月光は差し込むはずがない。窓ガラスも透明の天板も取り付いていない。
薄暗いのに倉庫内全体をはっきり把握出来る奇妙な感覚。
ここを訪れたのは初めてじゃない。
「これってまさか、つっ!?」
経験から磨き上げられた危機管理能力と生まれ持って備わった磁力センサーが同時に発動する。
俺は咄嗟に横に飛んで転がり込んだ。
さっきまで俺がいた位置に棒状の何かが叩き込まれる。バキッと鈍い音が鳴った。
折れたのは三本鍬だった。
鉄具の部分が派手に吹き飛ぶ。ただの木の棒だったら感知出来ずに脳天をかち割られていた。
俺の耳に届く、賞賛の拍手。
「流石だね、折坂君。素晴らしい反応だ」
信じたくない。嘘だと叫びたい。
それでも何度も俺を励ましてくれた優しい声が、他の誰でもないことを明確に告げていた。
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