09_そして夜①

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 「過放次元まで知ってるのか。魔力を感じないから君は宿り身じゃないだろ?知り合いにいるのかい?」  宿り身なら今日一緒に来てんだけど。勝手にばらすのはまずいよな。  「……俺の先生が宿り身にコネがあるんすよ。だから過放次元の存在は知ってる」  適当に出任せを言う。師範代はそうかと呟くだけで元から興味は無さそうだった。  「それより、師範代が宿り身なんでしょ。こんな場所まで用意して」  確信を持って言うも、師範代は首を横に振った。  「僕は宿り身じゃない」  突き放すような一言には苛立ちや不快感の類が含まれていた。  「あんなやつらと一緒にされるのはごめんだ」  師範代と宿り身の間にどんな経緯があるかは分からない。ただ宿り身をかなり毛嫌いしているらしい。  詳細を聞き出したい気持ちを理性で押さえ込む。俺が知らなければならないのは過去じゃなく今の話だ。  「って師範代の正体なんてどうだってよかった」  俺は改めて師範代と対峙する。  「タイヤ、あるじゃないすか。どうしてあんな嘘を?」  「君達をこの村に留めておく為さ」  悪びれる様子もなく師範代は真実を告げる。  「じゃあ、あのハイエースは……」  「僕が自分でパンクさせたんだ。愛車だから心が痛んだよ」  犯人に対する怒りも電話での確認も全てが演技。車に自ら杭を刺す光景を想像し、背筋が寒くなる。  そこまでして俺達を帰らせたくなかったのか。  覚悟を決めて俺は訊いた。  「最後にもう1つ。どうして俺を襲ったりするんすか」  返答次第では許さないと師範代を睨む。  「この村を守るためだよ」  答える師範代の声は静かだった。  「これが何か分かるかい?」  師範代が見せたのは凹み歪んだ金属バット。グリップの部分はビニール袋で覆われ、その上から掴んでいる。  「試合じゃ使えない、ただのおんぼろバットでしょ」  「ただのゴミじゃないんだ。こいつは虎枯が雇った暴走族からくすねた、大事な証拠品だ」  大事と言いながら師範代は忌々しそうにバットを眺める。
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