13人が本棚に入れています
本棚に追加
「過放次元まで知ってるのか。魔力を感じないから君は宿り身じゃないだろ?知り合いにいるのかい?」
宿り身なら今日一緒に来てんだけど。勝手にばらすのはまずいよな。
「……俺の先生が宿り身にコネがあるんすよ。だから過放次元の存在は知ってる」
適当に出任せを言う。師範代はそうかと呟くだけで元から興味は無さそうだった。
「それより、師範代が宿り身なんでしょ。こんな場所まで用意して」
確信を持って言うも、師範代は首を横に振った。
「僕は宿り身じゃない」
突き放すような一言には苛立ちや不快感の類が含まれていた。
「あんなやつらと一緒にされるのはごめんだ」
師範代と宿り身の間にどんな経緯があるかは分からない。ただ宿り身をかなり毛嫌いしているらしい。
詳細を聞き出したい気持ちを理性で押さえ込む。俺が知らなければならないのは過去じゃなく今の話だ。
「って師範代の正体なんてどうだってよかった」
俺は改めて師範代と対峙する。
「タイヤ、あるじゃないすか。どうしてあんな嘘を?」
「君達をこの村に留めておく為さ」
悪びれる様子もなく師範代は真実を告げる。
「じゃあ、あのハイエースは……」
「僕が自分でパンクさせたんだ。愛車だから心が痛んだよ」
犯人に対する怒りも電話での確認も全てが演技。車に自ら杭を刺す光景を想像し、背筋が寒くなる。
そこまでして俺達を帰らせたくなかったのか。
覚悟を決めて俺は訊いた。
「最後にもう1つ。どうして俺を襲ったりするんすか」
返答次第では許さないと師範代を睨む。
「この村を守るためだよ」
答える師範代の声は静かだった。
「これが何か分かるかい?」
師範代が見せたのは凹み歪んだ金属バット。グリップの部分はビニール袋で覆われ、その上から掴んでいる。
「試合じゃ使えない、ただのおんぼろバットでしょ」
「ただのゴミじゃないんだ。こいつは虎枯が雇った暴走族からくすねた、大事な証拠品だ」
大事と言いながら師範代は忌々しそうにバットを眺める。
最初のコメントを投稿しよう!