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「今日は最終期限日。恐らく総戦力で乗り込んで来るだろう。このバットの持ち主も一緒にね」
稽古に夢中ですっかり忘れていた。今日の夜8時に虎枯が来るんだった。
「でもそれは、延期させるって……」
言いながら鵜呑みにしていた自分を恥じる。
「君達を安心させる為の嘘だよ。本当に今日が最後なんだ」
朗らかな顔をするのは諦めてしまったからか。この発想がいかに安直だったかすぐに思い知らされる。
「だから君達を招待した」
師範代の声から温度が失われた。
冷や汗が頬を伝う。師範代がまるで生贄を求めて佇む亡霊のように見えた。
「最初はね、君達に証言者になってもらいたかった。この村の現状、いかに悪質な手口で虎枯が計画を強行しているのかを」
「そんなもん、いくらでも協力しますよ」
前向きな話し合いに持って行こうと俺は声を張る。
希望の道筋を師範代は見た気がした。ところが、自らの意思で断ち切るように頭を振る。
「それじゃ駄目なんだ!今までだってあらゆる所に被害を報告した。だけど状況は一向に改善しない」
すっと師範代の目が据わる。
「証拠が要るんだ」
迷いを絶つ。強者のオーラが師範代が大きく見せた。
「部外者の旅行客が暴走族に襲われた。流石の警察も動かざるを得ない」
師範代の脚本によれば、被害者は俺。あのバットでぶん殴って血なりを付着させる気だ。
「安心してくれ。絶対に殺しはしない。ただ入院だけは勘弁して欲しい」
入院って……。それなりに痛め付ける気かよ。
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