09_そして夜①

9/26
前へ
/264ページ
次へ
 「今日は最終期限日。恐らく総戦力で乗り込んで来るだろう。このバットの持ち主も一緒にね」  稽古に夢中ですっかり忘れていた。今日の夜8時に虎枯が来るんだった。  「でもそれは、延期させるって……」  言いながら鵜呑みにしていた自分を恥じる。  「君達を安心させる為の嘘だよ。本当に今日が最後なんだ」  朗らかな顔をするのは諦めてしまったからか。この発想がいかに安直だったかすぐに思い知らされる。  「だから君達を招待した」  師範代の声から温度が失われた。  冷や汗が頬を伝う。師範代がまるで生贄を求めて佇む亡霊のように見えた。  「最初はね、君達に証言者になってもらいたかった。この村の現状、いかに悪質な手口で虎枯が計画を強行しているのかを」  「そんなもん、いくらでも協力しますよ」  前向きな話し合いに持って行こうと俺は声を張る。  希望の道筋を師範代は見た気がした。ところが、自らの意思で断ち切るように頭を振る。  「それじゃ駄目なんだ!今までだってあらゆる所に被害を報告した。だけど状況は一向に改善しない」  すっと師範代の目が据わる。  「証拠が要るんだ」  迷いを絶つ。強者のオーラが師範代が大きく見せた。  「部外者の旅行客が暴走族に襲われた。流石の警察も動かざるを得ない」  師範代の脚本によれば、被害者は俺。あのバットでぶん殴って血なりを付着させる気だ。    「安心してくれ。絶対に殺しはしない。ただ入院だけは勘弁して欲しい」  入院って……。それなりに痛め付ける気かよ。
/264ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加