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「ちょっと待てよ。俺が全部ありのまま話したらこの計画意味無いすよ」
当然バットの持ち主に濡れ衣は着せられない。
「それについては心配しなくていい。これ、何だか分かるかい?」
師範代の手には透明の小瓶。注射器のように小さな針が見える。
「やば目の薬すか?」
「似たような物だね。一定期間の記憶を曖昧にさせる薬だよ。僕が君にすることは全部忘れてもらう」
いい物持ってんな。やるだけやって後は知らん顔かよ。
「どこで売ってんすかそれ。ドラッグストア?」
師範代の表情が曇る。あれ、面白くなかった?
「宿り身の知り合いにちょっとね。僕にも色々ツテがあるんだ」
なんでぇ、嫌ってますみたいな顔しといて結局世話になってんじゃねぇか。
「さて時間も無いし、そろそろ始めようか」
「嫌ですって言ったら?」
ヘラつく俺に対して、師範代は真顔のまま告げた。
「その時は仕方ない。君の友達の誰かに変わってもらおう」
顔が強張り、徐々に険しくなっていくのを自覚する。師範代は本気だ。
「師範代……見損なったぞ」
俺相手だからこそ、非道な手を下せるんだと思ってた。その魔の手を俺の仲間に伸ばすなら話が変わる。
優しく、そして熱心に稽古を付けてくれた。先生よりも兄のような感覚だった。
全ては俺を騙す演技だったのかもしれない。この瞬間を作り出す為に。
だけど、俺は強くなれた。何よりも楽しかった。
この2日間の思い出に鍵をかけ、心の奥底にしまう。
俺は師範代を敵として認識した。
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