09_そして夜①

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 「それって宿り身が持つもう1つの姿だろ?宿り身じゃないってことはあんたは……」  「簡単な話さ」  師範代は簡潔に答えを教えてくれた。  「僕は魔物そのものだよ」  考えればそう難しくない話だ。  宿り身の中に巣食う魔物がいるなら魔物本体がいるのはごく自然。  ただ事前に仕入れた情報との誤差がボタンのかけ違いのように無視出来ない違和感へと変わっている。  「魔物って全部宿り身に変わったんだろ?元の世界に帰れないとかの理由で」  この手の話は何度も矢浪さんと水原さんがしてるから勝手に俺も記憶していた。  矢浪さん曰く魔物は別次元の住人。  初めてこの世界が襲撃された際に侵入を許すも結界で帰れなくなり、魔術を用いて後世に生きた証を残した迷惑の権化。  ごく稀に野良の魔物もいるって言ってたけど、師範代がそれに該当するのか?  「そうか、宿り身からそう教えられたんだね」  大きな口から嘆かわしいと言わんばかりに溜息を吐く。  「だからやつらは好きじゃないんだ。いつも自分達の都合がいい方に事実を捻じ曲げる」  宿り身は本当のことを言ってないってのか?矢浪さんや姉さんが嘘吐いてるようにはとても見えんけどな。  「僕らは最初からこの世界に住み続けている。魔導界(ダルギス)からの侵略者なんかじゃない。  それなのに宿り身はいつも僕らの存在を隠そうとする。気が付けばただの化け物扱いさ」  今現代において圧倒的主流は何の力も持たない普通の人間。半分狼の姿を見れば化け物と表現してしまうのも無理はない。  ただそれが宿り身によって整えられた結果だとしたら。異形の者、時には恐れの対象として影へと追いやられた本人達はどれだけやるせないだろう。
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