09_そして夜①

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 「最後に忠告しておくよ。宿り身(やつら)の言うことをあまり鵜呑みにしない方がいい」  狼の瞳がスッと細められる。戦闘のスイッチが入ったのを感じ取った。  闘気に呼応し、師範代から教わった膝の力を抜いた自然な構えを取る。  「もう一度だけ言わせてもらう。本当にすまない」  「何度もしつけぇよ。謝るくらいなら最初から馬鹿な真似すんじゃねぇ」  表情の分かりづらい狼の顔が悲しげに見えた気がした。  低い唸り声。闘争本能を全開にし、犬歯を剥き出しにする。  それが戦闘開始の合図だった。  魔物と一戦交えるのは当然初めて。攻撃パターン、魔物特有の動きと全てが初見となる。  よく見ろ。矢浪さんがいつも言っている。師範代も要所要所で口にしていた。  怖がるな。まずは研究。よく見た上で攻撃のリズムを……!?  直進し距離を詰めてくると踏んでいたが、早速出鼻を挫かれる。  飛んだ。しかも溜めをほとんど作らないノーモーションで。  「ったく、無茶苦茶過ぎんだろ」  この前戦ったフォーレンといい師範代といい。こっちの常識を簡単にぶっ壊しやがる。  体毛をはためかせ飛来する師範代。振りかざした爪が狙いを定めて怪しく光る。  軌道を予測、屈んで回避。鞭のように振るわれる細腕が頭上を通過し空を切った。
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