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「だったら無駄に苦しむがいいさ!」
咆哮からの疾走。今度は最短で距離を詰める。
カウンターは当然警戒されている。有効な一打、不意打ち、どんな手を使ってもこの場を打破しねぇと。
……そうだ、あれがある!
一瞬の閃きは師範代の速さを上回った。
腰に手を回す。師範代にとっては予想外の動きだっただろう。
接触間近。ここぞというタイミングで懐中電灯の光を師範代の目に当てた。
「うっ!?」
稽古を共にしてきたから分かる。師範代の集中力は異常だ。
些細な情報でも見逃すまいと神経を尖らせれば尖らせるほど受ける刺激は強くなる。同じ光度でも通るダメージは遥かに大きい。
動きに綻びが生じる。目が眩んだのか薙ぎ払う腕は正確性を欠く。
避けた拍子に足払い。勢い余り、混乱と相まって師範代は転倒した。
このチャンスを逃す訳にはいかない。この場から最も近い場所、森へと全速力で逃げ込んだ。
本当は磁力で操れる物が多くあった倉庫に戻りたかった。遠距離からの攻撃を混ぜれば活路を見出せたかもしれない。
でも師範代の攻撃を避け続けている内に倉庫から離れてしまったのは誤算だった。あの距離だと辿り着く前に追いかける師範代に捕まる可能性がある。
だから一度森に入って体勢を立て直す。師範代の目を盗んで倉庫に行ければ逆転は可能だ。
深い森。木に覆われていても過放次元ならはっきりと見える。元の世界なら月明かりがあってもこうはいかない。
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