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『うん。ちょっと、その……』
口元でもごもご言い淀んでいる。五十鈴がバツが悪い話をする時の合図だ。
『ハルさんから聞いたんだけど、今度の部活の研究旅行に行くんでしょ?だから私も行ってもいいかなって』
一応道場の体験入門がメインなんだけどな。水原は研究旅行の名目を崩さない構えらしい。
『って、私がどうしても行きたいんじゃなくてね!ハルさんが参加は自由だから皆で行こうよって何回も言うから!仕方なく……じゃないけど一応尋にも聞いてみようと思って』
電話口の声は後半になるにつれて尻すぼみする。
素直じゃないやつだ。いや、水原が本当にしつこかった可能性もある。真実は明るみに出そうにない。
「話が早くて助かった。俺も五十鈴も一緒に行かないかなと思って電話したんだ」
『あ、そうなんだ。でも部外者が行ってもいいのかな……』
「誰でも誘っていいって言ってたから大丈夫だろ。それに1人でも多い方がいいって感じだったしな」
部外者を言い出したら参加予定の全員がそうだろう。少なくとも俺達には同じ学校の生徒の肩書きがあるし、五十鈴はその妹だ。
『そっか……。じゃあ私も行こうかな』
「おう。誘ってくれたやつには俺から連絡しておくから」
『うん、ありがと。じゃあこれから準備するから電話切るからね!また明後日!おやすみ!』
「おやすみ。風邪ひくなよ」
俺の声が届いたかは微妙だった。
電話越しでも当日を楽しみに待つのが伝わる。子どもらしくはしゃぐ声を久しぶりに聞くことが出来た。
どうやら、いつまでも昔を気にしていたのは俺だけだったみたいだ。
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