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息を殺し大木の影に身を潜める。
目指すは倉庫。俺も足には自身があるけど、人狼となった師範代の速さを考えれば先に仕掛ける必要がある。
となれば師範代が俺を探しに来ても迂闊には動けない。奥へ奥へと進んで充分に距離が取れたら倉庫にダッシュだ。
それとも他に手があるか。この辺りは緑ばっかりで金属が極端に少ない。俺の能力と相性最悪だ。
呼吸が落ち着いて来た代わりに心臓の鼓動に意識が向く。一音一音がやたら響き、周囲に漏れ聞こえてないか心配になる。
こんなにうるさいのはここが音の無い過放次元だからだ。
だから草木を踏みつける些細な音も敏感に拾い上げる。
来た。まだ距離はある。1つ1つ確認してるのかゆっくり一定間隔で進んでいる。
「折坂君、どこだい?」
爽やかな俺を呼ぶ声。誰か返事なんかするかってんだ。
額から流れ落ちる汗を慎重に拭う。師範代は少しずつ奥に進んでいく。
よし、この調子なら作戦を実行出来る。焦るなよ。余裕で逃げ切れるくらい離れてからだ。
足音からおおよその距離は分かる。そろそろいいだろうと足に力を入れたその時、
「折坂君、何か勘違いしてないか?」
勘違い?何を?
考える間もなく、駆ける音が俺を目掛けて一気に近付く。
「くそっ!バレてんのかよ!」
今更背を向けても逃げられないから迎撃体勢を取る。つーかどうして場所が分かったんだっ。
答えを知る前に黒い影は頭上から飛んで来た。
4本足に横に長い胴体。
その姿はまさに黒い狼だった。
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