13人が本棚に入れています
本棚に追加
「上っ!?てか見た目が違っ」
奇襲と形状の変化に、どう対処するか判断が遅れた。
咄嗟に庇った左腕に純白の牙が突き立てられる。
「があっ!?」
痛みの電気信号が脳を通り越して全身を駆け巡る。あまりのショックに昔犬に噛まれた記憶がフラッシュバックするもその比じゃない。
腕の骨がゴリゴリと不吉な音を立てる。その瞬間に俺も正気を取り戻した。
下手に動かしたらこのまま骨を噛み砕かれる。腕一本じゃ勝ち目は無い。
「放せ、ごらあっ!」
俺は右手に握った懐中電灯を力の限り頭部に叩き付けた。
「ギャン!?」
人よりも犬に近い悲鳴が上がる。噛み付いたまま着地出来ずにいた師範代は吹っ飛んだ先の地面を転がった。
反射的に背を向け、一刻も早くこの場を立ち去る。
倉庫、とにかく倉庫だ。何でもいいから早く武器を手にしねぇと。
左腕の出血を押さえながら森を駆ける。過放次元で木を避けながら進むのは難しくない。
だけど俺は自分が思ってる以上に焦っていた。
突然の急斜面、そして肝が冷えるような足元の浮遊感。
「あっ、こっちじゃねぇ……」
出口を間違えた。来た道ではなく別のルートから森を抜けてしまった。
気付いた時にはもう遅い。体勢を崩し、崖を転がる。植物が小さく皮膚を裂く。
森に放り出された俺は次の瞬間ずぶ濡れになった。
淀んだ水飛沫を上げることで体の回転が止まる。下半身のみになった道着が水を吸って重くなる。
最初のコメントを投稿しよう!