09_そして夜①

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 「冷たっ、って田んぼかぁ?」  どうやら森を抜け、村の田んぼに落ちたらしい。周囲には薄く張られた水面から稲が背を伸ばしている。  不快にまとわりつく泥から急いで立ち上がると、森の方から木の枝が弾けるような音がした。  黒い影が同じように田んぼに降って来る。派手に泥を撒き散らし、4つ足の師範代は俺の行く手を阻んだ。  黒い体毛がゾワっと膨らんだかと思うと体を起こし前足は腕へと変化。人狼の姿に成り変わる。  「変身まで出来んのかよ」  「人狼なんだ。人になれるなら狼にもなれる。どっちも本当の姿さ」  至極当たり前のように師範代は説明した。  「隠れても無駄だよ。僕の優れている所は爪や牙ではなく、嗅覚さ。どこに身を隠そうとも手に取るように分かる」  自分の鼻を指差し、師範代は誇らしげに言った。  「そういや、犬の嗅覚は人の千倍以上だっけか?そりゃ見つかるわけだ」  「そんなことよく知ってるね」  「ガキの頃本で知ったんだよ」  お袋が買ってくれた動物の不思議をまとめた本。俺よりもお袋がはしゃいでいたから記憶に残っている。  「その知識を覚えてりゃ、この事態は避けられたかもな」  ズキリと痛む左腕を掴む。どうにか骨は無事で動かすには問題ない。  「いや、結果はそうそう変わらないよ。分かっていたとしても対策のしようがない」  「はっ、そりゃそうか」  森に逃げ込んでも隠れられないなら意味がない。走って逃げてもその速さを前に呆気なく捕まるのがオチか。
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