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日本の新首都、中央都中央北部に広がるオフィス街。
各企業のビルが点在するこの地に宿り身統括組織『グレイス』は本部を構えている。
一見すると特色の無い11階建てのビルではあるが、宿り身の関係者が一度足を踏み入れれば別の次元へと場所を変える。
過放次元と呼ばれる、枝分かれした別の世界。グレイス本部は誰も立ち寄ることが出来ない隔離された場所に拠点を置き、現世に携わり続けている。
一方で過放次元に赴かず、11階建てのビルをそのまま活用する宿り身も少なくない。
過放次元には時間という概念が無く、常に昼時気分を味わう羽目になるのが理由だ。
生活リズムを維持するために日の傾きと時計の針を一致させる。特にデスクワークに追われる際には、深夜における脳の覚醒に期待を込める意図も含まれていた。
時刻は23時。夜も深まる中、1人の女性が10階の作業デスクで書類をまとめていた。
彼女の名前は『夏目柚紀』。年齢は20代半ば。ようやく幼さが抜けつつある派手目な顔立ちは、朝から続く目の酷使で疲労が隠せない。
周りに誰もいないのをいいことに、普段は手入れの行き届いたミディアムロングの黒髪は雑に後ろで縛られている。
「ふいー、やっと終わったー」
ようやく今日回ってきた仕事を終え、勢いよくノートパソコンを閉じる。
疲れ目を揉みほぐし、パンツスーツに身を固めたしなやかな体を自由に伸ばした。基本的にはきっちり振る舞っている彼女には珍しいオフの姿だ。
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